趣旨
平均賃金は、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇中の賃金や、休業補償、傷害補償、遺族補償、葬祭料、打切補償、減給制裁の制限などの算定基礎となるもので、これらに該当したときの労働者の生活を保障するためにある。
要は、通常の状態における平均的な賃金を決めればよいのであるが、実際にはさまざまなことが起きるので、計算額が高すぎたり、低すぎたりしないようにするための算定ルールが複雑になっており、実務的にも結構難しい。 |
2.1 算定すべき事由の発生した日以前3か月間
発生日以前?
「算定すべき事由の発生した日以前3か月間」とあるが、発生日は賃金が支給されないか、支給されても低額のことが多いので、実際には発生日前(発生日は含まず)3か月(暦日)とする。
じん肺患者の場合
「じん肺にかかったことによる災害補償等に係る平均賃金は、疾病の確定した日を発生日として算定した金額が、じん肺等にかかったため作業転換した日を算定事由発生日として算定した金額に満たない場合は、後者とする」(S39.11.25基発1305)
⇒ つまり、作業転換により給料がダウンした場合は、作業転換前(じん肺作業に従事していた時)の賃金をベースに算定する。
ベースアップ分が遡って支払われた場合
「平均賃金は、事由発生時において労働者が現実に受けとった、又は受けることが確定した賃金について算定する。よって、算定事由発生後にベースアップ分が支給されたとしても、遡って算定する必要はない」(S23.8.2基収2934)
ただし、たとえば8月1日に4月から7月までの昇給分が支給され、8月2日に算定事由が発生した場合は、昇給分は各月に配分して算定する必要がある。
賃金締切日
「2項 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する」
⇒賃金締切日が月末 で、算定事由発生日(たとえば、解雇日)が月末である場合は、直前の締切日は前月の月末となる
「直前の賃金締切日は、それぞれ各賃金ごとの締切日である」(S26.12.27基収5926)
⇒基本給等は20日締めで当月25日払い、時間外手当等は末日締めで翌月10日払いにおいて、算定事由発生日が23日である場合、平均賃金は以下による計算結果の合計値とする。
・基本給等はその月20日から起算(当月締め分はまだ支払われていないが額は確定しているので、当月締め分も含めて計算)
・時間外手当等は、先月末日から起算(当月分はまだ確定していないので、先月末日締め分から計算)。 |
2.2 期間、賃金総額からの控除
「3項 前2項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する」
1 |
業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間 |
2 |
産前産後の女性が65条の規定によって休業した期間 |
3 |
使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間 |
4 |
育児・介護休業法に規定する育児休業又は介護休業をした期間
⇒ 子の看護休暇は対象外である。 |
5 |
試みの使用期間 |
「3項 1号から4号までの期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3か月以上にわたる場合は、これらの期間の最初の日を持って、算定すべき事由発生日とする(つまり、休業前の賃金をベースとする)
なお、この期間中に賃金水準の変動が
あった場合には、当該事業場において同一業務に従事した労働者の平均賃金額の変動により、これを推算すること」(S22.9.13発基17) |
2.3 賃金総額
「4項 賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない」
「5項 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める」
通貨以外で支払われた賃金(施行規則2条)
「賃金の総額に算入すべきものは、法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする」
「同2項 通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない」
「3項 労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合、又は前項の評価額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は通貨以外のものの評価額を定めることができる」 |
2.4 最低保障(1項但し書き)
「12条1項において、ただし、その金額は次の各号の一によって計算した金額を下ってはならない」
1 |
賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60 |
2 |
賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
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趣旨
賃金が日給、時間給、出来高払制、請負制などの場合、3か月間中に欠勤が多かったり、業績が非常に悪かったりすると、平均賃金
害が異常に低額になって生活費の保障の意味をなさなく恐れがある。
但し書きは、このような場合を想定して最低保障額を定めたものである。
注:2号は、例えば月給(固定給)と日給あるいは時間給の併用である場合などをいい、いわゆる日給・月給制(賃金を月単位で払うが、欠勤、遅刻、早退等があった場合はその時間や日数に応じて減額する賃金制度)に対しては適用されない。 |
2.5 その他の条項
「6項 雇入後3か月に満たない者については、1項の期間は、雇入後の期間とする」
「7項 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする」
⇒「原則的には、平均賃金を算定すべき理由の発生した日以前1か月間に当該日雇労働者が当該事業場において使用された期間がある場合には、その期間中に当該日雇労働者に対して支払われた賃金の総額をその期間中に当該日雇労働者が当該事業場において労働した日数で除した金額の100分の73とする」
「8項 1項から6項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる」 |