19年度 法改正トピックス( 社会保険労務士法に関する主要改正点)

 社会保険労務士の業務拡大に関して施行が予定されていた部分について、正式に19年4月1日から施行されることになった。
  改正後 改正ポイント
業務の拡大  紛争解決代理業務の拡大(2条1項)(施行日H19.4.1)

1の4
(一部
追加)

 個別労働関係紛争解決促進法の紛争調整委員会における5条1項のあつせんの手続及び男女雇用機会均等法18条の調停の手続について、紛争の当事者を代理すること
 ⇒ 男女雇用機会均等法による調停の手続についての代理業務の追加
1の5
(新規)
 都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争に関するあつせんの手続について、紛争の当事者を代理すること。
1の6
(新規)
 個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が民事訴訟法に定める額(60万円)を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る)に関する民間紛争解決手続であって、個別労働関係紛争の民間紛争解決手続の業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として厚生労働大臣が指定するものが行うものについて、紛争の当事者を代理すること。
3(参考)
(18年度改正部分)
 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること
⇒ 従来は、労働争議に介入することとなるものを除くとあったが、この分は削除

 (参考)裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の背景
(法務省ホームページより抜粋、要約)
 裁判外紛争解決手続とは,ADRとも呼ばれ,「訴訟手続によらず民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与して,その解決を図る手続」をいう。例えば,裁判所における調停、行政機関が行う仲裁,調停,あっせんや,弁護士会その他の民間団体が行う手続も含まれる。 
 これらは,厳格な手続にのっとって行われる裁判に比べて,紛争分野に関する第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図るなど,柔軟な対応が可能であるという特長がある。しかしながら、国民への定着が遅れ,必ずしも十分には機能していないので、裁判外紛争解決手続の機能の充実が求められている。
 このような背景にあって、
@裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が成立し、平成16年12月1日に公布された。
Aその目的は,裁判外紛争解決手続の機能を充実することにより,紛争の当事者が解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし,国民の権利利益の適切な実現に資することにある。
B施行は平成19年5月31日までの政令で定める日である。 
 司法制度改革の流れを受けて、このたび、社労士業務としての紛争解決代理業務が拡大され、労働関係紛争に関わる活躍の場が広がった。
@ 従来の1号の4
 「個別労働関係紛争法における紛争調整委員会におけるあっせん代理だけでなく、男女雇用機会均等法における調停手続き」も可能に。
A 1号の5(追加)
 「都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争に関するあつせん手続について、紛争当事者の代理」が可能に。
B 1号の6(追加) 「60万円以下の場合は単独で、60万円以上の場合は弁護士と共同で、裁判外紛争解決手続による個別労働関係紛争の紛争当事者の代理 」が可能に。 

 

特定社会保険労務士  特定社会保険労務士(H19.4.1)
 「2条2項 前項1号の4から1号の6までに掲げる業務(紛争解決手続代理業務)は、紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつ、14条の11の3の1項の規定による付記を受けた社会保険労務士(特定社会保険労務士)に限り、行うことができる」
 「2条3項 紛争解決手続代理業務には、次に掲げる事務が含まれる」
1  1号の4のあつせんの手続及び調停の手続、1号の5あつせんの手続並びに1号の6の厚生労働大臣が指定する団体が行う民間紛争解決手続について相談に応ずること。
2  紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に和解の交渉を行うこと。
3  紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約を締結すること。
社労士と新しい業務との関係@従来からあった「あっせん代理」を含めて、紛争解決手続代理業務 はすべて、特定社会保険労務士でないとできないことになった。
AADR業務を行うには、社労士会などの団体が、法務大臣による認証を受けて認証紛争解決事業者となる必要がある。

 

 

職業倫理等  依頼に応ずる義務(20条)(H19.4.1)
 「開業社会保険労務士は、正当な理由がある場合でなければ、依頼(紛争解決手続代理業務に関するものを除く)を拒んではならない」
 

 

 「正当な理由がある場合でなければ、あつせん代理に関するもの以外の依頼を拒んではならない」
 から、
 「正当な理由がある場合でなければ、紛争解決代理業務以外の依頼を拒んではならない」へ
 禁止業務(22条)(H19.4.1) 
 「社会保険労務士は、国又は地方公共団体の公務員として職務上取り扱った事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件については、その業務を行ってはならない」
 「同2項 特定社会保険労務士は、次に掲げる事件については、紛争解決手続代理業務を行ってはならない」
1  紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
 ⇒「具体的な事件の内容について、法律的な解釈や解決を求める相談を受けて(協議を受けて)、これに見解をのべたりとるべき手段を教え(賛助し)た又は処理の依頼を受けた事件
2  紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
 ⇒ 具体的な事件の内容について、法律的な解釈や解決を求める相談を受けて(協議を受けて)
 相談の内容、方法、程度から見て当事者との強い信頼関係があると思われる事件
3  紛争解決手続代理業務として受任している事件の相手方からの依頼による他の事件(ただし、受任している事件の依頼者が同意した場合は除く)
4   開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が、紛争解決手続代理業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこれに関与したもの
5  開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員又は使用人である社会保険労務士としてその業務に従事していた期間内に、その開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人が、紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであって、自らこれに関与したもの
 このたびの改正で、紛争解決代理業務は特定社労士のみが行うことになった。
 よって、新22条は、1項が全社労士、2項が特定社労士を対象とするものになる。
参考
 「民法第108条 同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない」

 

 

懲戒  不正行為の指示等を行つた場合の懲戒(25条の2)(H19.4.1)
 「厚生労働大臣は、社会保険労務士が、故意に、真正の事実に反して申請書等の作成、事務代理若しくは紛争解決手続代理業務を行つたとき、又は15条(不正行為の指示等の禁止)の規定に違反する行為をしたときは、1年以内の開業社会保険労務士若しくは開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士の業務の停止又は失格処分の処分をすることができる」 
 あっせん代理業務から紛争解決手続き代理業務へ
社会保険労務士法人  設立(25条の6)(H19.4.1)
 「社会保険労務士は、この章の定めるところにより、社会保険労務士法人(2条1項1号から1号の3まで、2号及び3号に掲げる業務を組織的に行うことを目的として、社会保険労務士が共同して設立した法人)を設立することができる」
 社労士業務を定めた2条のうち、特定社会保険労務士しか行うことのできない1号の4、5、6の業務は、社会保険労務士 法人の業務から除かれた。
 業務の範囲(25条の9)(H19.4.1)
 「社会保険労務士法人は、2条1項1号から1号の3まで、2号及び3号に掲げる業務を行うほか、定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる」
1  2条に規定する業務に準ずるものとして厚生労働省令で定める業務の全部又は一部
2  紛争解決手続代理業務 (新規)
 「同2項 紛争解決手続代理業務は、社員のうちに特定社会保険労務士がある社会保険労務士法人に限り、行うことができる」
 業務を執行する権限(25条の15の2項)(H19.4.1)
 「紛争解決手続代理業務を行うことを目的とする社会保険労務士法人における紛争解決手続代理業務については、特定社会保険労務士である社員(特定社員)のみが業務を執行する権利を有し、義務を負う」
 法人の代表(25条の15の2)(H19.4.1)
 「社会保険労務士法人の社員は、各自社会保険労務士法人を代表する。
 ただし、定款又は総社員の同意によつて、社員のうち特に社会保険労務士法人を代表すべきものを定めることを妨げない」
 「同2項 紛争解決手続代理業務を行うことを目的とする社会保険労務士法人における紛争解決手続代理業務については、前項本文の規定にかかわらず、特定社員のみが、各自社会保険労務士法人を代表する。
 ただし、当該特定社員の全員の同意によつて、当該特定社員のうち特に紛争解決手続代理業務について社会保険労務士法人を代表すべきものを定めることを妨げない」
 社員の責任(25条の15の3)(H19.4.1)
 「社会保険労務士法人の財産をもつてその債務を完済することができないときは、各社員は、連帯して、その弁済の責任を負う」
 「4項 紛争解決手続代理業務を行うことを目的とする社会保険労務士法人が紛争解決手続代理業務に関し依頼者に対して負担することとなつた債務を当該社会保険労務士法人の財産をもつて完済することができないときは、第1項の規定にかかわらず、特定社員が、連帯して、その弁済の責任を負う」
 紛争解決手続代理業務の取扱い(25条の16の2) (H19.4.1)
 「紛争解決手続代理業務を行うことを目的とする社会保険労務士法人は、特定社員が常駐していない事務所においては、紛争解決手続代理業務を取り扱うことができない」
 特定の事件についての業務の制限(25条の17)(H19.4.1)
 「紛争解決手続代理業務を行うことを目的とする社会保険労務士法人は、次に掲げる事件については、紛争解決手続代理業務を行ってはならない」
1  紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件  ⇒22条2項の1号に対応
2  紛争解決手続代理業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
 ⇒ 22条2項の2号に対応
3  紛争解決手続代理業務として受任している事件の相手方からの依頼による他の事件(ただし、受任している事件の依頼者が同意した場合は除く)
 ⇒22条2項の3号に対応

4

 22条1項、2項各号に掲げる事件として社員の半数以上の者がその業務又は紛争解決手続代理業務を行ってはならないこととされる事件

 業務の執行方法(25条の19の2項)(H19.4.1)
 「紛争解決手続代理業務を行うことを目的とする社会保険労務士法人は、特定社会保険労務士でない者に紛争解決手続代理業務を行わせてはならない」 
@社会保険労務士法人は、定款でその旨定めるとともに、その中に特定社会保険労務士がおれば、紛争解決手続代理業務を行うことができる。
A実際に紛争解決手続代理業務を行うのは、その法人内にいる特定社員(特定社会保険労務士である社員)だけである」
B上記に関連して、社会保険労務士法人に関する規定の見なおし、整備が行なわれた。
 

 法人の代表(25条の15の2)
⇒法人の代表者の選定ができることを明確化した。