基礎講座 労働者災害補償保険法

S02

 適用事業と労働者

 
KeyWords  適用事業適用除外

労働基準法によると、業務上災害により被災した労働者に対しては、使用者は災害補償をしなければならない。しかし、使用者が経済的な理由により補償の負担に耐えられないとなると、被災労働者の保護が結果としてなされないことになってしまう。
 そこで、政府が音頭をとり、万が一の場合に備えて保険料を積み立ておき、事業主間の相互扶助によって労働者に対する災害補償義務を確実なものにしようとする保険制度を設けた。これが労災保険制度である。
 なお、通勤災害については、労基法では事業主に補償義務を課していないが、労働者の通勤は事業の運営にとって欠かせないものであるから、通勤災害についても業務災害に準じた補償を行なうことになっている。


 補償の対象者
 労災保険法による労働者とは労基法における労働者と同じであり、よくいわれるように、1日限りのアルバイトや不法就労外国人であっても労働基準法が適用されるので、労災法も適用される。詳細はこちらを参照のこと。
 ただし、労働者であっても適用除外の者がいる。これらの者には災害補償は不要ということではなく、他の法により保護されているという理由により労災保険法の適用除外者なのである。
 これらから、適用除外者以外の者を使用するすべての事業が、強制加入の適用事業であってしかるべきであるが、一部の個人事業に限り暫定措置として、加入を任意としている。これが暫定任意適用事業と呼ばれる事業である。
 また、事業主であっても一定規模以下の中小事業の事業主や、個人タクシーの運転手さんなど労働者を使用していない人でも、一定の要件を満足すれば特別加入できる制度もある。
 どの法にも例外規定や特別扱いの規定があり、受験生を悩ませるひとつの要因になっているが、地道に学習を進めていくしかない。
 
1.適用事業(3条)
 「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする」
 「この法律で、労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所で使用される者で、賃金を支払われる者をいう」(労基法9条)
 基礎知識と過去問学習はこちらを

 
 労災保険法では「事業主」とは法人の代表者あるいは個人事業主であ り、法人であろうと個人事業であろうと、事業主は被保険者となることができない。(ただし、特別加入の制度はある)
 なお、厚生年金保険法や健康保険法においても事業主と称されるが、この場合は法人の代表者であっても、法人に雇われていて報酬を受けているとみなされて、被保険者となりうるなど、取り扱いが異なる。
 事業とは
 「労災保険法において事業とは、一定の場所においてある組織のもとに相関連して行われる作業の一体をいい、強制適用事業であるか否かは、その作業体即ち事業場の実態によって決定すべきものである。
 即ち、一つの事業場における主たる作業が強制適用事業に該当する場合には、その事業場の中の任意適用に該当する部分(事務所等)をも含めて強制適用の事業場とする」(S22.9.11基発36)
⇒ 適用事業であれば、その事業の労働者全員が一括して適用される。
 労災保険率適用基準について (S62.2.13発労徴6基発59、現在はH12.02.24発労徴12,基発94による)
(1)基本原則
 「個々の事業に対する労災保険率の適用については、@事業の単位、Aその事業が属する事業の種類、Bその事業の種類に係る労災保険率の順に決定する。
(2)事業の概念
 「事業とは、一定の場所においてある組織のもとに相関連して行われる作業の一体をいい、工場、建設現場、商店等のように利潤を目的とする経済活動のみならず社会奉仕、宗教伝道等のごとく利潤を目的としない活動も含まれる」
(3)適用単位としての事業
 「一定の場所において、一定の組織のもとに相関連して行われる作業の一体は、原則として一つの事業として取り扱う」
(2-1)継続事業
 「工場、鉱山、事務所等のごとく事業の性質上事業の期間が一般的には予定し得ない事業を継続事業という。 
 継続事業については、同一場所にあるものは分割することなく一つの事業とし、場所的に分離されているものは別個の事業として取り扱う
 ただし、同一場所にあっても、その活動の場を明確に区分することができ、経理、人事、経営等業務上の指揮監督を異にする部門があって、活動組織上独立したものと認められる場合には、独立した事業として取り扱う。(たとえば、工場内にある食堂とか診療所などはその典型的な例である)
 また、場所的に独立しているものであっても、出張所、支所、事務所等で労働者が少なく、組織的に直近の事業に対し独立性があるとはいい難いものについては、直近の事業に包括して全体を一つの事業として取り扱う」
⇒ 1事業所とは会社単位ではなく、原則として、工場、支店、営業所などの場所単位である。
(2-2)有期事業
 
「木材の伐採の事業、建物の建築の事業等事業の性質上、一定の目的を達するまでの間に限り活動を行う事業を有期事業という。
 有期事業については、当該一定の目的を達するために行われる作業の一体を一つの事業として取り扱う」
⇒ 有期事業に期限の上限はない。
(3)事業の種類
 「一つの事業の「事業の種類」の決定は、主たる業種(業態)に基づき、「労災保険率適用事業細目表」により決定する。
⇒同じ場所において多様な業種が営まれているものの、それぞれを明確に区分することはできず、経理、人事、経営等業務上の指揮監督においても、活動組織上独立したものと認められるまでにはない場合は、原則にのっとって、一つの事業とみなされる。
 その場合の労災保険率は、必ずしも労働者の数の多少ではなく、主たる業種(その事業の実質的な内容、主たる作業の種類、主たる製品・完成物、主として提供されるサービス等により判断される主たる事業の種類)に応じて決められる。
(4)労災保険率
 「決定された事業の種類に基づき、労災保険率表により、労災保険率を決定する」
 ⇒労災保険率のいずれの事業に該当するかは、当該事業の主たる業態・種類又は内容等により当該事業を1単位として保険率を決定すべきものである。⇒ 1事業では1労災保険率である。
 共同企業体による建設事業(S41.02.15基災発8)
 「建設業において、2以上の建設業者が共同企業体を結成して工事を施行している場合の適用事務は、以下によって処理されたい」
(1)甲型(全構成員が各々資金、人員、機械等を拠出して、共同計算により工事を施工する共同施工方式の場合)は、共同企業体が行う事業の全体を一の事業とし、その代表者を事業主として保険関係を成立させること。
(2)乙型(各構成員が工事をあらかじめ分割し、各々分担工事について責任を持って施行し、共通経費は搬出するが、損益については共同計算を行わない分担施行方式の場合)は、協定書に基づいてあらかじめ分担されている工事部分をそれぞれ独立の事業とし、各構成員をそれぞれ事業主として保険関係を成立させること。
 出向労働者に対する労災保険法の適用について(S35.11.2基発932)
 「ある事業(出向元事業)に雇用される労働者(出向労働者)が、その雇用関係を存続したまま、事業主の命により、他の事業(出向先事業)の業務に従事する場合に労災保険法の適用は、以下の通りとする。
・出向元事業と出向先事業とのいずれにあるかは、出向の目的及び出向元事業主と出向先事業主とが当該出向労働者の出向につき行った契約並びに出向先事業における出向労働者の労働の実態等に基づき、当該労働者の労働関係の所在を判断して、決定すること。
・その場合において、出向労働者が出向先事業の組織に組み入れられ、出向先事業場の他の労働者と同様の立場(ただし、身分関係及び賃金関係を除く)で、出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事している場合には、たとえ、当該出向労働者が、出向元事業主と出向先事業主が行なった契約等により、出向元事業主から賃金名目の金銭給付の金銭給付を受けている場合であっても、出向先事業主が、当該金銭給付を出向先事業の支払う賃金として賃金総額に含め、保険料を納付する旨を申し出た場合には、出向先事業に係る保険関係によるものとすること」
・上記後段の場合は、出向労働者に対して出向元事業主が支払う賃金名目の金銭給付を、出向先事業の賃金総額に含めること、また、業務上災害が発生し、保険給付のため平均賃金を算定する必要が生じたときは、出向元事業所が支払う賃金名目の金銭給付に、出向先事業主が出向労働者に対して支払った賃金を合算した上で、保険給付の基礎となる平均賃金を算定すること」
 在籍型出向と移籍型出向について(S61.06.30基発383
 「在籍型出向は、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係がある状態での出向であり、それぞれ労働契約関係が存する限度で(注:すなわち出向に関する取り決めにより定められた権限と責任において)労働基準法等の適用がある。
 ここで、出向先と出向労働者との間に労働契約関係が存するか否かは、労働関係の実態により、出向先が指揮命令権を有していることに加え、出向先が賃金の全部又は一部の支払いをすること、出向先の就業規則の適用があること、出向先が独自に出向労働者の労働条件を変更することがあること、出向先において社会・労働保険へ加入していることなど総合的に勘案して判断すること」
上記の出向労働者に対する労災保険法の適用については、この在籍出向の場合の話である。
 「移籍型出向は、出向先との間のみに労働契約関係がある形態で、出向元と出向労働者との労働契約関係は終了している。つまり、出向先についてのも労働基準法等の適用がある」
 派遣労働者(S61.6.30基発383) 
 「労働者派遣事業に対する労働保険の適用については、労災保険、雇用保険双方とも派遣元事業主の事業が適用される。
 派遣元事業主は、派遣労働者を雇用し、自己の業務命令によって派遣先の事業場において就労させているのであるから、派遣労働者を雇用している者として、派遣先の事業場において派遣労働者の安全衛生が確保されるよう十分配慮する責任がある。また、業務上の負傷・疾病に係る解雇制限の規定、あるいは補償を受ける権利の退職による不変の規定は、労働契約関係当事者である派遣元事業主に災害補償責任のあることを前提としていると考えられる。
 さらに、労災保険法において「労働者を使用する事業を適用事業とする」と規定していることから、労働者派遣法においても特例を設けず、派遣元事業主を労災保険の適用事業とすることが適当である」

 
1' 任意適用事業(昭和44年法附則12条)
 「政令で定めるものは、当分の間、適用事業としない」
 「同2項 前項の政令で定める事業は、任意適用事業とする」
 整備令17条(S47.3.31 政令47)
 「都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業、法人である事業主の事業 、船員法1条に規定する船員を使用して行う船舶所有者の事業及び労災保険法に規定する業務災害の発生のおそれが多いものとして厚生労働大臣が定める事業を除き
 常時5人未満
の労働者を使用する個人事業で次の各号に掲げる事業は任意適用事業とする」
 @土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
 A動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他畜産養蚕又は水産の事業
 労働省告示35号(S50.4.1)
 「以下の各号の事業は、常時5人未満の労働者を使用する個人事業であっても、強制適用事業とする」  
@  立木の伐採、造林、木炭又は薪を生産する事業その他の林業で、常時労働者を使用する者又は、1年以内の期間における使用労働者が延べ人員300人以上のもの
A  別表第1に掲げる危険または有害な作業を行う事業であって、常時労働者を使用する者
B  総トン数5トン以上の漁船による水産動植物の採捕の事業(河川、湖沼又は特定の水面において操業するものを除く)
(ただし、船員法1条に規定する船員を使用する場合は、一人でも適用事業)

 結局のところ、
個人事業の農業  常時使用する労働者数が5人未満の場合は任意適用事業事業(事業主が特別加入している事業を除く)
個人事業の水産業  常時使用する 労働者数が5人未満でありかつ、5トン未満の漁船あるいは5トン以上であっても河川、湖沼又は特定水面で操業するものは任意適用事業業
個人事業の林業  労働者を常時使用せず、かつ延使用労働者数が年間300人未満は任意適用事 業
 ただし ・船員法1条に規定する船員を使用して行う船舶所有者の事業は強制適用事業。
・労働者を常時使用して、危険有害な作業(身体に著しい振動を与える機械の使用、危険または有害なガスや毒劇薬を使用する作業など)を主として行う場合は、 いかなる事業であっても強制適用事業

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 農業関係特別加入の際の扱い
 「常時5人以上の労働者を使用しない個人経営の農業の事業(毒劇薬・危険有害ガスの取り扱い等業務災害の発生の恐れが多いものとして厚生労働大臣が定める者を除く)については、加入申請をしない限り、そこに使用される労働者に労災保険の適用はないが、その事業主がその事業について特別加入をしている場合には、当然に労災保険が適用されることになる。その結果、当該事業主は保険関係成立に係る種々の手続きを行わなければならない」
⇒ 事業主が特別加入した後に労働者を使用した場合は使用した日に、逆の場合は特別加入承認日に、労働者に係る保険関係が成立するので、その翌日から10日以内に「保険関係成立届」を提出する。
⇒ 事業主が特別加入から脱退しても、引き続き労働者が使用される限り、当然労災保険が適用され、労働者に係る保険関係は消滅しない。(以上 S3.3.1発労徴13、基発123)
2 適用除外(3条の2項)
 「前項の規定にかかわらず、国の直営事業及び官公署の事業(労働基準法別表第1に掲げる事業を除く)については、この法律は適用しない」
 すなわち、適用除外者は、
1  国の直営事業(たとえば、H25.03.31までの国有林野事業)  3条2項による(国家公務員災害補償法の適用)
2  特定独立行政法人(国立印刷局、造幣局等)  職員の身分が国家公務員であるため、国家公務員災害補償法が適用される。
3  非現業の官公署の事業  3条2項による(国家公務員、地方公務員災害補償法の適用)
3'  現業の地方公務員であって常勤の者  S42.10.27基発1000参照

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 官公署の事業
 「労災保険法3条2項の「官公署」とは非現業の官公署(事業部門を除く一般行政事務を取り扱う事務所(国・地方自治体の役所、市役所、町村役場等々)をいい、適用がない。
 また、かっての国有林野事業など国の直営事業には適用されないが、市町村の直営事業(県や市による土木、建築事業、市が経営する水道事業など)については適用がある」(S23.8.4基収2465およびS22.9.12基発39)
 地方公務員への適用(S42.12.1により変更)
 「地方公務員であって現業部門の非常勤職員でないものについては、地方公務員災害補償法が適用されるようになったため、労災保険法の適用がなくなる」(S42.10.27基発1000)
 「地方自治体の消防機関の消防団の消防吏員については3条2項により適用されない。なお、予備消防員は市町村の労働者と認められないので、労災保険法は適用されない」(S24.7.21基災収3885)
⇒ 消防吏員は地方公務員。予備消防員は、通常は別途に職業を持っている。
 在日外国公館
 「在日外国公館に勤務する事務職員、技術職員及び役務職員であって、日本国籍を有するもの又は永住許可を受けている外国人もしくは永住許可を受けている外国人と同様に永住的にわが国に居住している外国人であるものが常時5人以上の場合には、当該外国公館を強制適用事業とし、当該外国公館の代表者を事業主とする。日本国籍を有するもの等以外のものについては、本国の災害補償制度の保護を受けないこと等のため当該外国公館の代表者が特に希望する場合に限り、都道府県労働局長の承認により保険加入を認める」(S44.4.11基発238)
 独立行政法人と特定独立行政法人
 「独立行政法人は、国民生活および社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されない恐れがあるもの又は一つの主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、独立行政法人通則法等により設立される法人である」
 「この独立行政法人については、
@その職員の身分が国家公務員とされる特定独立行政法人(いわゆる公務員型独立行政法人)
⇒ 労基法、安衛法は適用。労災保険法は適用除外。
Aそれ以外の独立行政法人
⇒ 労基法、安衛法、労災保険法、労基法関連は全面適用(以上H13.2.22基発93)