基礎講座 労働基準法   Tome塾Homeへ

R16

妊産婦等

 
KeyWords  就業制限・就業禁止産前産後と育児時間
 男女雇用機会均等法の浸透などに伴い、法の上での男・女の違いによる別扱い規定は原則なくなりました。たとえば、「時間外・休日・深夜労働に関する女性保護の規定」も平成11年から撤廃となりました。
 しかしどう世の中が変わろうと、「母性保護」は残しておくべきものです。少子化が大問題となっている今日にあっては、その重要性はますます大きくなったともいえます。
 よって、労基法6章の2のタイトルは「女性」から「妊産婦等に変更(H19.4.1)
 
 就業制限・就業禁止
1.1 坑内業務の就業制限(64条の2)
 「使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない」
1  妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性
 坑内で行われるすべての業務
2  前号に掲げる女性以外の満18歳以上の女性: 
 坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの

・「女性の坑内労働の禁止」 から「妊産婦等の坑内業務の就業制限」に改正(H19.4.1)
妊産婦とは
 「母子保健法6条 この法律において「妊産婦」とは、妊娠中又は出産後一年以内の女子をいう」
 
63条 「使用者は、満18歳に満たない者を坑内で労働させてはならない」
   すなわち、64条の2項は、妊産婦と18歳以上の女性が対象。
 坑内業務については、
1.妊娠中の女性は絶対禁止。
2.産後1年未満の産婦が申出た場合も絶対禁止
3.18歳未満の女性も絶対禁止
4.妊産婦以外かつ18歳以上の女性は、
  一定の業務(厚生労働省令で定めるもの)について禁止し、それ以外については認められるようになった。
 厚生労働省令で定めるもの(女性労働基準規則1条)
@人力により行われる土石、岩石若しくは鉱物(以下「鉱物等」)の掘削又は掘採の業務
A動力により行われる鉱物等の掘削又は掘採の業務(遠隔操作により行うものを除く)
B発破による鉱物等の掘削又は掘採の業務
Cずり、資材等の運搬若しくは覆工のコンクリートの打設等鉱物等の掘削又は掘採の業務に付随して行われる業務(鉱物等の掘削又は掘採に係る計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、保安管理その他の技術上の管理の業務並びに鉱物等の掘削又は掘採の業務に従事する者及び鉱物等の掘削又は掘採の業務に付随して行われる業務に従事する者の技術上の指導監督の業務を除く)
⇒女性土木技術者がシールド工法によるトンネル工事などの管理・監督業務を行なうことは認められる。

 参考までに、法改正(H19.4.1)までは、原則禁止で、
 「臨時の必要のため坑内で行われる業務で厚生労働省令で定めるものに従事する者については、例外的に許される」とされていた。
 ここで、厚生労働省令で定めたものとは、
 「@医師の業務、A看護師の業務、B新聞又は出版の事業における取材の業務、C放送番組の制作のための取材の業務、D高度の科学的な知識を必要とする自然科学に関する研究の業務」(女性労働基準規則 旧1条)
 
1.2 妊産婦等の危険有害業務の就業制限(64条の3)
 「使用者は、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(妊産婦)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない」
 「2項 前項の規定は、同項に規定する業務のうち女性の妊娠又は出産に係る機能に有害である業務につき、厚生労働省令で、妊産婦以外の女性に関して、準用することができる」
 「3項 前2項に規定する業務の範囲及びこれらの規定によりこれらの業務に就かせてはならないものの範囲は、厚生労働省令で定める」
⇒ 妊産婦に対する就業制限業務は、女性労働基準規則2条により具体的に規定されている。
⇒ 妊産婦以外の女性に(すなわち、妊娠中とか産後とかを問なずすべての年齢の女性労働者)に対する就業制限業務は、女性労働基準規則3条により、
@重量物を取り扱う業務(年齢区分別の上限重量を規定)、
A
・特定化学物質予防規則の適用をうける14種の化学物質を発散する場所において、作業環境測定の結果、第三管理区分に区分された場所における作業を行う業務など
・鉛中毒予防規則の適用を受ける鉛・鉛化合物を発散する場所において、作業環境測定の結果、第三管理区分に区分された場所における作業を行う業務など。
・有機溶剤中毒予防規則の適用を受ける12種の有機溶剤等を発散する場所において、作業環境測定の結果、第三管理区分に区分された場所における作業を行う業務など。

 
 「妊産婦の妊娠、出産、哺育等」とは、妊婦にとっては妊娠の正常な維持、継続、それに引き続く出産、さらには母乳による育児等のことであり、産婦にとっては、母乳による育児等のことをいう。また、哺育等の「等」には産褥、出産後の母体の回復等が含まれる」(H10.6.11基発344、女発169)
 
1.3 妊産婦の請求による就業禁止(66条)
 「使用者は、妊産婦が請求した場合においては、
 @1か月単位の変形労働時間制、
 A1年単位の変形労働時間制、
 B1週間単位の非定型的変形労働時間制
の規定にかかわらず、
 C1週間については40時間1日については8時間を超えて労働させてはならない」
 「2項 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、非常時災害時等の時間外・休日労働、36条による時間外・休日労働をさせてはならない」
 「3項 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない」

 
 変形労働時間制の適用について
 「妊産婦については、母性保護の見地から、使用者は妊産婦が請求した場合には時間外労働、休日労働又は深夜業をさせてはならないこととされているが、今回の改正により、1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制又は1週間単位の非定型的変形労働時間制が採られることとなった場合におけるこれらの制度による1日又は1週間の法定労働時間を超える時間についても、現行の時間外労働に係る妊産婦の取扱いとの均衡にかんがみ、妊産婦が請求した場合には、使用者は当該時間については労働させてはならないこととした」(S63.1.1基発1、婦発1)
⇒ フレックスタイム制については、労働者自らが始業時刻と終業時刻を決めることができることと、清算期間を通して週平均労働時間が法定労働時間以内であるから、妊産婦に対しても適用可能である。
 時間外労働、休日労働、深夜業の制限
 「66条2項、3項は妊産婦が請求した場合においては、使用者は時間労働、休日労働又は深夜業をさせてはならないこととしたものである。この場合、時間外労働もしくは休日労働についてのみの請求、深夜業についてのみの請求又はそれぞれについての部分的な請求も認められ、使用者はその請求された範囲で妊産婦をこれらに従事させなければ足りるものである。また、妊産婦の身体等の状況の変化等に伴い、請求内容の変更があった場合にも同様である」(S61.3.20基発151、婦発69)
妊産婦が管理監督者である場合、時間外労働、休日労働はさせてもよいが、深夜業については請求があればこれをさせてはならない。  

 産前産後と育児時間
2.1 産前産後(65条)
 「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない」
 「2項 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない}
 「3項 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない」
 
 出産(S23.12.23基発1885)
 「出産は妊娠4か月以上(1か月は28日と計算する。4か月以上とは85日以上のこと)の分娩とし、生産(セイザン)のみならず死産をも含むものとする」
 出産当日(S25.03.31基収4057)
 「出産当日は産前6週間に含まれると解してよいか」というお伺いに対して、回答は「見解のとおり」
 妊娠中絶(S26.4.2婦発113)
 「65条の出産の範囲は、妊娠4か月以上の分娩であり、妊娠中絶であっても妊娠4か月以後に行った場合には、65条2項(産後8週間の休業)の適用がある。産前6週間の休業の問題は発生しない。(注、出産予定日の6週間前に至っていないか、既に請求して休業中であるか、請求せず就業中であるかのいずれかであり、改めては発生しないということ)
 なお、産前6週間の期間は自然の分娩予定日を基準として計算し、産後8週間の期間は現実の出産日を基準として計算する」
⇒出産当日は産前6週間に含まれる。
⇒予定日から遅れた場合も、出産当日までは産前6週間に含まれる。(実際の休業期間が6週間、14週間を超過することもありうるということ)
 軽易な業務に転換通達(S61.3.20基発151、婦発69)
 「法第65条第3項は原則としてその女性が請求した業務に転換させる趣旨であるが、新たに軽易な業務を創設して与える義務まで課したものではない」
 産前産後休業と解雇制限との関係 通達(S25.6.16基収1526)を参照のこと
⇒私病などのため長期間就業していなくても、産前6週間に至ったら、65条1項による産前の休暇を改めて請求すること。請求により産前の休業期間中およびその後に自動的に発生する産後の休業期間+30日間は解雇できないのだ。  
 休業期間中の賃金
 有給とも無給とも規定されていないので、就業規則等の定めによることになる。
⇒健康保険法 「被保険者が出産したときは、出産の日以前42日(多胎妊娠の場合においては、98日)から出産の日後56日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金として、1日につき、直近1年間の標準報酬月額の平均値の30分の13分の2に相当する金額が支給される」
 その後育児休業に入ったときは
⇒ 雇用保険法 「被保険者がその1歳(厚生労働省令で定める場合は1歳6か月)に満たない子を養育するための休業をした場合において、一定の要件をみたせば、育児休業給付金として、休業開始時賃金日額×支給日数×40(当面は50)/100に相当する金額が支給される」 
 
2.2 育児時間(67条)
 「生後満1年に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる」
 「2項 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない」

 
 育児時間をいつ与えるか
 「生後満1年に達しない生児を育てる女性労働者が、育児のための時間を請求した場合には、勤務時間の始めだろうと終わりだろうと、勤務時間途中であろうと、その請求に係る時間に、当該労働者を使用することは、67条違反である」(S33.6.25基収4317)
⇒ 6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。
 育児時間の長さ
 「育児時間1回30分は、請求があった場合に就業させることができない時間であり、託児所等への往復時間を含めて30分の育児時間が与えられていれば、違法ではないが、往復の所要時間を除き、実質的な育児時間が与えられることが望ましい」(S25.7.22基収2314)
⇒ 事業場内の託児所等の場合である。遠方の自宅や託児所まで、というのは無理であろう。
 「1日の労働時間が4時間以内であれば、1日1回でもよい」(S36.1.9基収8996)